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十一 - 10

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「みんな同価(どうね)かと聞くと、へえ、どれでも変りはございません。みんな丈夫に念を入れて拵(こし)らえてございますと云いますから、蝦蟇口(がまぐち)のなかから五円札と銀貨を二十銭出して用意の大風呂敷を出してヴァイオリンを包みました。この間(あいだ)、店のものは話を中止してじっと私の顔を見ています。顔は頭巾でかくしてあるから分る気遣(きづかい)はないのですけれども何だか気がせいて一刻も早く往来へ出たくて堪(たま)りません。ようやくの事風呂敷包を外套(がいとう)の下へ入れて、店を出たら、番頭が声を揃(そろ)えてありがとうと大きな声を出したのにはひやっとしました。往来へ出てちょっと見廻して見ると、幸(さいわい)誰もいないようですが、一丁ばかり向(むこう)から二三人して町内中に響けとばかり詩吟をして来ます。こいつは大変だと金善の角を西へ折れて濠端(ほりばた)を薬王師道(やくおうじみち)へ出て、はんの木村から庚申山(こうしんやま)の裾(すそ)へ出てようやく下宿へ帰りました。下宿へ帰って見たらもう二時十分前でした」

「夜通しあるいていたようなものだね」と東風君が気の毒そうに云うと「やっと上がった。やれやれ長い道中双六(どうちゅうすごろく)だ」と迷亭君はほっと一と息ついた。

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